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読者は「ゲーム理論」をご存知だろうか? 最近、経済学ノーベル賞を取ったアレでもあり、囚人のジレンマとして有名なアレでもある。決して、筆者が浪人時代に思い浮かべた「ロールプレイングゲーム理論?」ではない。それは、いわさきゆきおが「逃走論」というタイトルから怪人を走らせた漫画を書いたのと同じ勘違いだ。いや、いわさきゆきおのほうが数段上だけど。

森川は、このプロジェクトの開始のときに、顧客との打ち合わせの場に臨んでいた。詳細なスケジュール、詳細な機能分け、詳細な金額表示で、合計700万という金額を割り出していた。

で、開口一番、稲尾さん(このプロジェクトの発注元だ)はこう言った。

「500万円になりませんかねぇ?」

「500万円ですか?」、と森川。 単純な値引き交渉を仕掛けてきているのか、単に予算がないのか、それともうちらのマージン分が気になるのか、不安になる森川。

「200万分、下げるとなるとですね、、、」と森川は、機能見積もりを出して指差してみた。「この機能と、この機能、そしてこの機能を削るとだいたい200万円ぐらいですねぇ」、と顔を曇らせる。

機能を削っても、管理工数やら試験工数やらが効率化されるわけじゃないので、見積もり上の金額だけ減るわけではない。そのあたりは森川も良く分かっているのだが、ここは交渉のしどころというところだろう。多少、うちらの利益率が下がるが、このプロジェクトの次の話があればよいし、そのあたりは譲歩してもいい。

「いやあ、そのユーザが研修した科目の一覧なんかは、必須な機能なので外せないんですよね」と稲川さん。

「となるとですねぇ、、、だいたいが最低限の機能になっているので、あまり削るところはないんですよね。600万ぐらいならばなんとかなるんですが、難しいでしょうか?」

「いやぁ、ここはひとつ、先を見て500万に下げて欲しいところです、、、と、ここの試験工数なんて減らすことはできませんか? そんなにいらないと思うんですけど?」

「試験工数ですか?」、と悩む森川。試験工数は減らせない。これだけの機能を作って、テストする場合にはこれだけという見積もりを出す、という昨日の計算を思い出して、安易に減らすのはリスクが高い。ひいては、品質が落ちるし、結局、顧客にもユーザにも迷惑がかかるし、あとのメンテナンスも大変になる高価な代償だ。

と、森川は、前の会社の先輩兼子さんの打ち合わせを思い出した。「顧客と対峙しようとすると、囚人のジレンマに陥ってしまうから、情報は共有してひとつの目標を達成するように努力するほうがいいんだ。こういう場合、顧客の問題が何なのか憶測するよりも、聞いてみたほうが早い」

「500万、なんとかなりませんか〜、森川さん」と、執拗な稲尾。

「そうですねぇ、500万で請けることも考えてみたいのですが、その500万って、今回の予算の限度額なんですか? この前、頂いたお話しだと、かなり予算に余裕があるという話だったと思うのですが」

「いやぁ、あれから、このプロジェクトのバックグラウンドで使うデータベースとサーバを見積もり発注したところですね、結構予算が掛かることがわかりまして、、、ネットワーク費用やら保守費用やらで、相当掛かるらしんです」

「なるほど、、、」

「で、先々、成功すれば続けていくことは確かなんですが、スタート時の費用は、もうちょっと減らせないか、という要望が来てですね、最大でも500万という数字しか、フロントの部分では出せないという話になってしまったんです」

「そうですか。でも、このシステムって先々も進むということですよね」

「そうです。確実に先の長い話になります。弊社としてもですね、フロント部分の改修は続けていきたいし、研修ユーザの人数が多くなれば、いろいろと WEB 関係のサービスを付け加えたいし、御社への発注量も多くなると思うんです」と、稲尾。

「ちょっと、この計画表をみてくれませんか」と、3年計画の詳細スケジュールを持ち出した稲尾。「ユーザ数とかは確定しないので、どれだけの収益が見込めるかは記述していいませんが、、、」

かなり、大雑把なスケジュールだが、半期毎の機能アップのスケジュールが書き込まれていた。企業内研修でそこそこの成績があがれば、グループ会社や子会社に広めていきたいという構想のようだ。

「わかりました、この700万の見積もりは、とりあえず脇において、500万という枠内で機能を考えてみましょう」

「ありがとうございます、そうなると、これとこの機能を削って、試験工数なんかを削って、、、」と、稲尾。

「いやいや、試験工数は品質的に期間が欲しいところなので、、、このスケジュールからみるとですね、もう少し後ろに延ばせるのであれば、試験工数も削らずに済むし」、とスケジュールを手書きする森川。

「当初の画面としてでもですね、スタート時の機能と、継続したときの機能を分けてしまって、最初に必須な部分を残してみると、、、」、と画面の図案に手を入れる森川。

「そうですね、スタート時に絞ってしまえば、ここの部分は人事課に頼むこともできるので、、、」と稲尾。

囚人のジレンマから抜け出すことができる森川であった。

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